ホンダのスポーツカーが好きな方の中には、「VTECの高回転サウンドが好き」という方も多いのではないでしょうか?
そもそも皆さんは、VTECがどのような仕組みかご存知ですか?
今回はホンダにしかできないと言われた革新的な技術、「VTEC」の仕組みを解説していきたいと思います。
ホンダにしかできない革新的技術VTEC
VTECとは?
「VTEC」は、ホンダが開発した、4ストロークエンジン用の可変バルブタイミング&リフト機構のことです。
正式名称は「ヴァリアブルバルブ・タイミング&リフトエレクトロニック・コントロールシステム」と呼ばれています。
4ストロークエンジンでは、シリンダーヘッド部分にあるバルブが開閉しながら吸気と排気を行いますが、このバルブ開閉のタイミングやリフト量を、エンジンの回転数に応じて変えることができるのが可変バルブタイミング&リフト機構です。
可変バルブタイミング機構にはメーカーによっていくつかの種類がありますが、ホンダが開発した可変バルブタイミング&リフト機構を、「VTEC」と呼びます。
それまで、基本的にエンジンは低回転または高回転のいずれかのみを効率的に動かすことができませんでしたが、VTECではその両立を可能にし低回転と高回転の両方に適したエンジンにすることができたのです。
4ストロークエンジンでは、シリンダー内のガス交換を効率的に行うことが重要です。
さらにガス交換を行う際には、バルブの開き量だけではなく、バルブオーバーラップという力を利用することで、より効率的に空気を取り込むことができます。
バルブオーバーラップとは、吸気と排気のバルブが同時に開いている状態のことです。
しかし、低回転時にバルブオーバーラップが起きると、排気ガスが逆流してエンジンの回転が不安定になることがあります。
それを可能にしたのがVTECでした。
VTECの仕組み
VTECはロッカーアームを介してバルブを駆動するロッカーアーム式を採用していますが、
従来のロッカーアーム式は、吸排気それぞれ2バルブを、それぞれ1つずつのカムとロッカーアームで駆動しています。
VTECでは、このシステムにもう1つのカムとロッカーアームを追加しています。
追加された真ん中のカムは、他の2つよりも大きいカム山の形状をしていて、3つのカムは油圧で動くピンで固定されており、回転数に応じて3つのロッカーアームが連動したり、切り離されたりするようになっています。
低速回転時は、ロッカーアームはそれぞれ独立して動きます。この時は、通常通りに2つのカムが2つのロッカーアームを押して2つのバルブを開閉します。
この時、真ん中の大きいカムもロッカーアームを押しますが、このロッカーアームには直接バルブが繋がっていないため、ただ空回りするだけです。
しかし高速回転時は、3つのロッカーアームがピンによって連結され、一体となって連動的に動くのです。
すると、真ん中の大きいカムが、この連結されたロッカーアームを押して、2つのバルブを開閉します。
この間、両側の小さいカムはロッカーアームに届かないため、実際に仕事をしているのは、真ん中の大きいカムだけということになります。
これにより、高回転時は大きいカムがバルブを押すことで、バルブが大きく開き、多くの気体を吸入することができ、より大きなパワーを発生することができるのです。
一方、小さいカムが押される低回転時では、バルブを開ける量はやや小さく、バルブオーバーラップはほとんど起こらないタイミングとなっています。
このような仕組みにより、低回転時も高回転時も、効率的にエンジンが動くことができます。
多くのメーカーが採用している可変バルブ機構は位相変化型と言って、バルブの開閉時間や開く量を変えることはできず、タイミングのみを調整することしかできませんでした。
VTECのカム切り替え式の可変バルブタイミング機構を実現できたのは、ミクロン単位の細かい技術が可能とした技術だったのです。
VTECの歴史・搭載車種
VTECは1984年にホンダが立ち上げたNCE計画にて初めて発案されました。
当時のDOHCエンジンではせいぜい80馬力/リッター程度を出すのが精一杯だったと言われていますが、この計画の目標は、リッターあたり100馬力、レッドゾーン8,000回転のエンジンを実現することでした。
当時は他のメーカーがすでに位相変化型の可変バルブ機構を採用していましたが、これではホンダが設定した目標を達成することができなかったのです。
そこで、発案されたのがカム切り替え型の機構でした。
ちなみにこのメカニズムは、焼き鳥屋で焼いているねぎまの様子から思いついたと言われています。。!
しかし、今までにない高回転エンジンを求めたよって、各部の負担も大きくなり、多くのトラブルが生じました。
高回転時に増えるカムの負荷に対応するために、頑丈な素材を使用し、オイルを回して潤滑することが必要でしたが、高回転によってタイミングベルトが耐え切れずに切れてしまったり、シリンダーヘッド内がオイルの海になったりと、多くの問題が次々に発生してしまったのです。
しかし、技術者たちは、ミクロン単位のパーツ精度と品質向上を実現してこれらの問題を解決。
特に、カム切り替え型エンジンは部品の精度が高いことが求められますが、ロッカーアームの製造メーカーの、高い機械加工精度や徹底した品質管理によってVTECは完成することができました。
そして、このように完成されたVTECは、1989年にリリースされた2代目インテグラに搭載。
目標であった1.6リットルの排気量に対して、最大出力160馬力、7600回転という高回転域を見事に実現することができました。
また、1990年には高性能フラッグシップスポーツのNSX、3リットルV6エンジンにも採用されました。
当初はDOHCのみでしたが、1991年の5代目シビックには、吸気側のバルブタイミングのみを制御するSOHC VTECを採用。
この頃には多くのホンダの車にVTECが採用されていました。
1995年には6代目シビックの1.5リットルモデルで、低・中・高回転の3段階で切り替えが可能な3ステージVTECが開発されました。
2000年からは、i-VTECと改名され、初代ストリームに搭載されたことを皮切りに、2001年には2代目インテグラTYPE-R、2002年にはアコードなどが採用されました。
2003年に発売された4代目インスパイアには、排気量3リッターのV6エンジンが搭載されており、VCMというシステムも搭載されています。
2015年に発売された5代目レジェンドはハイブリッド車で、VCMとVTECを合わせた3.5リッターのV6エンジンを搭載。
このレジェンドは、低回転、高回転の切り替えをVTECで行い、さらに高速巡行時にはVCMによって気筒休止をするという極めて複雑な構造を持っています。
そして同年には、VTECをターボエンジンに採用しました。
これが5代目のステップワゴンに搭載されました。排気側でVTECが採用されているのは、吸気側でターボの働きで十分だからです。
これによって、より効率の良いエンジンが実現されました。例えば、1.5リッターの排気量でも2リッタークラスのパワーが出るようになりました。
また、それまで軽自動車に搭載されていなかったVTECも、2017年には軽自動車初となる2代目N-BOXに搭載されました。
VTECはホンダの高い技術力があったからこそ誕生したものだった
細かい精度が求められるカム切り替え式の可変バルブタイミングを実現したホンダの技術は本当にすごいですね!
これもホンダのエンジンへのこだわり、F1などで培ったスキルや経験が為せる技だったのかもしれませんね!