すっかり一般的になったハイブリッド車の中でも、ちょっと特殊なイメージのある日産 e-POWER。
燃費はもちろん、他のハイブリッドとの違いや特徴がわからないという人も多いのでは無いでしょうか。
そこで今回は日産のハイブリッド技術「e-POWER」の気になる燃費性能や、採用されている革新技術、他のハイブリッドとの違いを解説していきたいと思います。
気になる燃費性能は?日産 e-POWERとは?
e-POWERはエンジンと電気モーターを組み合わせた日産の独自のハイブリッド技術です。
e-POWERの特徴は、車を走らせるためにモーターのみを使用し、エンジンは発電専用として機能する点です。
これはシリーズ方式と呼ばれ、ハイブリッド車としては電気車(EV)に非常に近い構造を持っています。
ハイブリッド技術には、エンジン走行が主とし、発進・加速時にモーターでサポートするパラレル方式や、発進・低速時はモーターのみで走り、速度上昇と共にエンジンとモーターが効率的にパワーを分担するスプリット方式もあります。
シリーズ方式のe-POWERは、エンジンで発電した電力をバッテリーに蓄積し、その電力を使ってモーターを駆動、車を動かします。
このため、e-POWERの加速感や乗り味は、ピュアEVと変わりません。
しかしこの技術のメリットは、EVのようにバッテリーが切れると走行不能になる問題を避け、ガソリンを補給するだけで即座に発電・走行が可能という点にあります。
ガソリンスタンドの方が充電スポットよりも多い現状を考慮すると、e-POWERは非常に便利な技術と言えます。
加えて、e-POWERの運転操作は特徴的で、アクセルペダル一つでの加減速が可能です。
アクセルを放すとブレーキを踏んだ時のような減速力が得られるため、非常に直感的な操作感を持っています。
但し、2020年以前のモデルではアクセルを放すだけで完全停止するものの、2020年以降のモデルでは完全停止するためにはブレーキペダルを踏む必要があります。
e-POWERのメリットとして、低燃費性能が挙げられます。
全ての動力をモーターから供給するため、エンジンの稼働が不要な場面では燃料の消費を抑えることができます。
例として、現行のノートでは、カタログ燃費がリッター28.4km、実燃費がリッター22.5kmとなっています。
但し、トヨタのアクアやヤリスのハイブリッド技術は更に高い燃費性能を誇り、カタログ燃費でリッター35kmを実現しています。
e-POWERの技術にはいくつかの顕著なメリットがあります。
まず、その静粛性の高さです。e-POWERは車を走らせる動力としてモーターのみを使用するため、エンジンが稼働する機会が限られています。このため、エンジン音のストレスを感じることが少ないです。
ただし、2020年以前のe-POWER搭載車に関しては、エンジン音がやや大きいとの声もあるため、購入時の注意が求められます。
また、エンジン音の静粛性が高まると、ロードノイズや風切り音が気になると感じるユーザーもいるようです。
次に、e-POWERの走行性能の良さです。
搭載されているモーターは、2.0Lクラスのターボエンジンに相当するトルクを持っており、低速から安定して高いトルクを発揮します。
これにより、都市部での走行でも、ストレスなく快適に運転することができます。
また、e-POWERには4WD仕様も存在します。
この4WD車には「e-POWER 4WD」という独自のモーターアシスト方式が採用されており、路面状況に応じて2WDと4WDを自動で切り替える機能が備わっています。
これにより、さまざまな路面状況での安定性が期待できます。
しかし、e-POWERにもデメリットが存在します。
それは、他のハイブリッド車と比べて、高速巡行時の燃費がやや劣ることです。高速道路を頻繁に利用するユーザーにとっては、燃費面での不利を感じるかもしれません。
これらの特徴を踏まえ、次にe-POWERに使用されるエンジンにおける、日産の熱効率50%を目指す取り組みについても詳しく解説します。
熱効率50%!日産 e-POWERの革命的な技術とは?
2021年2月、日産は次世代e-POWER向けの発電専用エンジンにおいて、熱効率50%を実現する目処を立て、その発表を行いました。2030年代の早い時期に実現することを目標としています。
熱効率とは、燃料が持つエネルギーに対して、どれだけの出力として取り出せるかの割合を示すものです。
例を挙げると、熱効率が30%の場合、残る70%は無駄になってしまいます。
この熱効率を高めることで、燃料消費が同じ場合でも出力を高めることができ、また、同じ出力でも燃料の消費を減らすことができます。
従来の自動車用ガソリンエンジンでは、熱効率は平均的に30%台で、最高でも40%台前半が限界とされていました。
このため、熱効率50%は技術者にとって大きな目標となっていました。
熱効率を高めるための方法は大きく2つあります。
1つ目は圧縮比を上げる方法、2つ目は比熱比を上げる方法です。
比熱とは、一定量の気体の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量のことを指し、比熱比が大きいほど気体は温まりやすくなります。
エンジンにおいては、空気の割合を多くすることで比熱比を大きくすることができますが、簡単にはできない課題が多いです。
特に、熱効率50%を実現するためには、理論空燃比の2倍以上の空気が必要で、これを安定して燃焼させることは非常に難しいのです。
理論空燃比とは、空気中の酸素とガソリンが最も効率よく燃焼する時の比率で、これは空気14.7gに対してガソリン1gとなります。
空気が多い状態をリーン、少ない状態をリッチと呼びます。
もう1つの方法である圧縮比を上げることも考えられますが、圧縮比を過度に上げると、ノッキングという現象が起き、エンジンにダメージを与える恐れがあります。
一般的には、ガソリンエンジンの圧縮比は10~13が適正とされており、簡単には上げることはできません。
熱効率を高めるための手法として、日産は2倍以上薄い混合気を燃やしやすくする特殊な方法を採用しています。
具体的には、シリンダー内でタンブルという縦方向の渦を生じさせ、それを点火プラグの電極部に当てます。
この手法により、火花が伸びる放電チャネルが形成され、着火する空気の面積が増えるため、安定して着火することができます。
この新しい燃焼コンセプトはSTARCと呼ばれます。火花の形を燃焼室内の気流で変えることで、薄い混合気に着火しやすくする技術です。
しかし、この手法は発電に特化したe-POWERのエンジンでのみ実現可能です。
タンブル気流を生み出すためには、一定の動作領域に最適化された吸気ポート、燃焼室、ピストン形状が必要であり、通常のエンジンのように運転領域が大きく変わるエンジンではこの方法は採用できません。
e-POWERのエンジンは充電のためだけに使用されるので、エンジンの回転数を変える必要がありません。これにより、高度な燃焼方法が実現できるのです。
さらに、バッテリー技術の進化により、タンブル気流を作成するためのエンジンの定点回転が可能になりました。
この技術と、更なるフリクションの低減や効率的な廃熱回収を組み合わせることで、2030年代には熱効率50%を達成する可能性があると日産は発表しています。
燃費の向上は、CO2排出の削減という形で環境性能の向上にもつながります。
日産は2050年のカーボンニュートラルを目指し、EVやe-POWERを中心にした戦略を進めています。
すでに、e-POWER専用車種も販売されており、今後もEVやe-POWER搭載車の普及が進むと考えられます。
ノートだけじゃない!日産 e-POWERの歴史、採用車種
e-POWERの歴史や採用車種について説明します。
e-POWERは、2016年11月にE12型ノートのマイナーチェンジで初めて採用されました。この技術は、第1世代と第2世代とで分けられます。
第2世代は2020年12月にフルモデルチェンジされたE13型ノートからの採用が始まりました。
第2世代e-POWERでは、インバーターとモーターが一体化し、コンパクトで高出力化が図られています。
また、第1世代ではエンジン音が大きかったとの意見がありましたが、第2世代では静粛性が向上しています。
この技術進化により、市街地でのエンジン作動を最小限に抑えつつ、走行音が大きくなる場面では効率よく発電することが可能となりました。
また、一部の車種では、ナビの情報を基にして充電しやすい場所を予測する機能も搭載されています。
e-POWERを搭載した代表的な車種をいくつか紹介します。
ノート
まず、ノートは2016年11月のマイナーチェンジで初めてe-POWERが採用され、この際に発売3週間で2万台以上の受注があったと言われています。
この受注のうち、78%がe-POWER搭載車でした。
2020年12月のモデルチェンジ時には、第2世代e-POWERが採用され、トルクや出力が向上しました。E13型ノートでは、パワートレインがe-POWERのみに設定されています。
2021年8月には、ノートの上位車種としてノート・オーラが発売されました。
これはノートよりも一回り大きく、5ナンバーから3ナンバーへとサイズアップしています。
セレナ
セレナにもe-POWERは採用されています。
この車は、2018年3月にC27型セレナe-POWERとして追加されました。
特に、バッテリーだけでの走行を実現する「マナーモード」と事前充電を行う「チャージモード」が新設定されています。
そして、2022年12月にフルモデルチェンジされたC28型では、エンジンの排気量が1.4Lにアップしました。
このセレナには、「先読み充電制御」という、ナビ情報を基に経路上での充放電を管理する世界初の機能が採用されています。
キックス
キックスは2016年から海外市場での販売がスタートし、日本では2020年6月にe-POWER専用車種としてデビューしました。
当初はガソリン車でしたが、2020年5月にはタイでe-POWERを搭載したモデルが登場し、それが日本にも導入されました。
このキックスには第1世代のe-POWERが搭載されており、エンジンの作動タイミング制御の最適化によって、エンジンの作動頻度が減少し、静粛性が向上しています。
さらに、2022年7月にはマイナーチェンジが行われ、第2世代e-POWERが搭載されたことで燃費性能が改善され、「2030年度燃費基準90%達成車」となりました。
また、四輪駆動モデルのe-POWER 4WDが新たに搭載され、フロントだけでなくリアにもモーターが配置され、前後のトルク配分を自在にコントロールできるようになりました。
これによって、走行安定性と加速性能が向上しました。
エクストレイル
2022年7月にフルモデルチェンジされたT33型のエクストレイルは、第2世代e-POWERとともに、1.5L直3可変圧縮比エンジン「VCターボ」を搭載しています。
e-POWERは原則発電用のエンジンですが、ターボを採用することで、低回転数でも高出力発電が可能となりました。
このターボエンジンには、通常のエンジンでは実現できない、圧縮比を変えるVCR機構が採用されています。
この機構により、ノッキングのリスクが低い低中速・低負荷域では高圧縮比の14に、高速・高負荷域ではノッキングを防ぐための低圧縮比の8に調整されます。
圧縮比は8から14の間でシームレスに変化します。
e-POWERの初期の問題点として、エンジンの始動タイミングや、エンジンの回転数と加速の不一致が指摘されていましたが、これは欧州市場に進出するに当たっての課題ともなっていました。
新型エクストレイルのエンジン制御は、時速100km/h近くまで2,000rpm以下を保つよう設定されており、静粛性が向上しています。
e-POWERは、車種によってさまざまな工夫が施されています。